水たまりには世界が写っている
あ。
朝一番に窓を開けると真っ白に吹雪いていた
時が流れるにつれて徐々に雨へと変化して
暮れる頃にはそれさえもあがっていた
駅の改札を抜けて家路につく
空には呑気に星がちらついていて
コートの袖口に結晶が舞い降りたことなど
たった半日ほど前のことなのに嘘のようで
でこぼことしたアスファルト道のすき間に
申し訳程度の水たまりが見える
すぐには気が付かないほどの大きさで
良くも悪くも存在を消してしまっていて
そのくせじっくりと覗き込んでみれば
ちゃんと星を写し取っている
流星群を見に行こうと思い立って車を飛ばして
ひと気の少ない琵琶湖へ行ったのは去年の夏
見上げた夜空はひっきりなしにちかちか瞬いてたし
それを写した琵琶湖の水もゆらゆら揺らいでいた
空の大きさに限りはないだろうに
一つの湖の中にだっておさまるし
気付かれない水たまりの中にだって存在する
もしかしたら知らないところで
意外と簡単に仕組みは出来上がってるのかもしれない
かばんの中からキーケースを取り出し
鍵を差し込もうとしたときにふと思う
次に雨や雪が降ったときには
空の欠片も水の切れ端もすくい取れるように
お気に入りの銀スプーンを持っていこう