水たまりには世界が写っている
あ。

朝一番に窓を開けると真っ白に吹雪いていた
時が流れるにつれて徐々に雨へと変化して
暮れる頃にはそれさえもあがっていた


駅の改札を抜けて家路につく
空には呑気に星がちらついていて
コートの袖口に結晶が舞い降りたことなど
たった半日ほど前のことなのに嘘のようで


でこぼことしたアスファルト道のすき間に
申し訳程度の水たまりが見える
すぐには気が付かないほどの大きさで
良くも悪くも存在を消してしまっていて
そのくせじっくりと覗き込んでみれば
ちゃんと星を写し取っている


流星群を見に行こうと思い立って車を飛ばして
ひと気の少ない琵琶湖へ行ったのは去年の夏
見上げた夜空はひっきりなしにちかちか瞬いてたし
それを写した琵琶湖の水もゆらゆら揺らいでいた


空の大きさに限りはないだろうに
一つの湖の中にだっておさまるし
気付かれない水たまりの中にだって存在する
もしかしたら知らないところで
意外と簡単に仕組みは出来上がってるのかもしれない


かばんの中からキーケースを取り出し
鍵を差し込もうとしたときにふと思う
次に雨や雪が降ったときには
空の欠片も水の切れ端もすくい取れるように
お気に入りの銀スプーンを持っていこう




自由詩 水たまりには世界が写っている Copyright あ。 2010-02-08 19:05:32
notebook Home 戻る