ハルミ
高梁サトル


幼い頃から爬虫類や両生類や昆虫が大好きで
森の中でそんなものたちと出会ったら
木苺にでもなって食べられたいと思ってた

青々と茂った中にちらほらと咲く白い花
水底の砂利まで見える谷川
孵化する蜻蛉の透通った羽
そんな在るだけの生命に成りたくて
ずっとずっと憧れて眺めていた



だけど日が暮れ始めると途端に心細くなって
灯を求めて駆け足で家路についた
暖房のきいた温かい食卓で
シチューを啜りながら幸せを感じて
ああ
少し思索することを覚えただけの
結局これが私なのだって
銀色の無機質なスプーンをぼんやりと眺めた

分かり合えるはずなんかないものに
どうして
心のどこかで応答を望んでしまうのだろう
不毛な幻想を抱くのは人間の特権ね



ある冬の朝だった
畑で野菜の種を蒔いていたおばあちゃんが言ったの

「春の訪れを待つ気持ちは皆同じね」
「だから父さんの名前は“ハルミ”なのよ」って

それは生命が共存する為のすべての源なんだって

その日私は
不甲斐ない自分を泣くしかなかった


自由詩 ハルミ Copyright 高梁サトル 2010-02-08 03:31:14
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