冬の夕暮れに便所に立つまでのひとつの乱雑な考察
ホロウ・シカエルボク




撲殺の感触のような中枢の痛み
地の底まで沈みこむ心情を他人事みたいに傍観しながら
彼方の空にあるのは白に消えそうな青
白痴のような未熟がゆっくりと左胸を叩く
死を見るからこそ生きたくなる
死を見るからこそ生きたくなる
俺がこうして死を見つめるのは
どんな人生であれそれがただの中断であるかのように思えてしまうからこそだ
欠片のような真昼の月に
輝きを求めるのはお門違いだ
まるで
まるで暗闇に向かう長い跳躍
俺に命を感じさせるものは
いつだって無残に死に絶えた何かで
それをネガともポジとも俺は言いたくはなく
ただ拘ってしまうのは生きたいと願っているせいだろうと
カテゴライズの必要性にそっぽを向いて飯を喰う
選んでしまったのだから
上っ面の言葉なんか吐きたくはない
誰の心にそれが届くことがなくても
心底から引っ張り出して紙の上に並べてやるのさ
俺が目にしたいと願っているのはいつだってそういうものだから
そこに拘り続けて悪いことなんか何もない
冬の夕暮れが恐ろしいのはそのまま凍えてしまうのではないかと考えてしまうから
夏の夜明けが恐ろしいのはそのまま焼き尽くされてしまうのではないかと考えてしまうから
そんな風に当り前に忍び込むものを歌おうとすることに
手法や韻律などどうして必要だというのだろう
間違えるなよ、ここに書かれているのは決して言葉通りのことなんかじゃないぜ
俺が求めているのは羅列という現象からやってくるカタルシスそれのみかもしれない
書こうとしているものと残そうとしているものは別のこと
手段として正解というものですらないのかもしれない
開けるべき扉だと思えばとことん開けてみるだけのことさ
真昼の月の輝きはそこに存在していないわけではなくて
俺たちの目に見ることが出来ないというそれだけのこと
いつだって月は月であり
俺たちの生きている場所がどんな時間であろうとやつには関係がない
まるで
まるで暗闇に向かう長い跳躍
ここにあるのは誰に届かない叫び
そんなものにどんな意味があるのだろうかと時折考えるけれど
意味の有無を考えることが俺の人生の命題ではないのだ
続けること、続けること
ひとつの石を磨き続けるみたいに
なんらかの欲望のもとにそれを紡ぎ続けること
俺の言葉はこれまでの激しさや忙しさとは別の
呆然とした地平へ向かい始めている
その地平に立った時俺の目に何が見えるだろう
冬の夕暮れや夏の夜明けのような恐ろしさがそこにあればいいのに
跳ぶんだ、見えてようが見えていまいが
一度飛び始めたら飛び続ける以外に選択肢はないはずさ
生身の筋肉が果てしない瞬間を駆ける時のその喜びを
果てしない瞬間のままお前に伝えたいのさ
跳ぶんだ、跳ぶんだ、跳ぶんだ、跳ぶんだ、そこに決意があろうとなかろうと
選択して腰を深く沈めた以上は
跳ぶんだ、跳ぶんだ、跳ぶんだ、跳ぶんだ、跳べないなんて泣きごとは通用しない
跳べないのかどうか判断するのはお前がやることじゃない
お前はただ選んだことの続きを、沈み込んだ先の跳躍を
この場に曝して見せるだけでいい
怖いか、怖いのか
冬の夕暮れのように夏の夜明けのように恐ろしいのか
それが怖いならなおさらのこと飛ばなければならない
怖れが力になるのには幾時間かの期限がある
それが過ぎるともう何処へも行けない
時のミイラとなって部屋の隅で朽ちるのみだ
いいか、面白いことを教えてあげよう、俺たちのアクションなんかで世界は変わることなんかない
革命は弾薬を持ってるやつの自慰に過ぎない
だから好きに叫ぶだけでいいのさ
続けるということ以外に責任を負うことはない
なぜ続けなければならないか、そこにしか成長は存在しないからだ
なぜ続けなければならないか、そこにしか進化は生まれないからだ
いままでと同じ言葉をまるで違うみたいに吐くために
俺はこうしてだらだらと愚にもつかないことを書き連ねているのだ
ここに覚悟があると言ったらたいていのやつは笑うさ
だけどそこそこ判ってくれる奴だっているってもんだ
どっちもいるからどっちも正解、好きなようにやればいいんだ
ひとつの決定がひとつの事実を縛ることなんて出来やしない
留まっても見定めることなんて決して出来はしないぞ
流れてゆく景色の中で目にとまったものこそが真実だ
僅かな時間で目の中に焼きつけられた景色だけが
それを解かずに受け止めることが大事なんだ
生きてることなど人の身に理解出来るわけがない
そのまま次の地平に行け
焼きつけられたものがお前の中でいつかひとつの世界に変わる
紙きれの上にまぼろしのようなお前の人生
紙きれの上にまぼろしのようなお前の人生が残る
それを誇りに思うかどうかはお前の気分次第でいい
どちらにしても景色は流れてゆくものだから
着地点など定めずに飛べ、それはひとつの点に過ぎない
着点など定めずに飛ぶんだ、それはひとつの点に過ぎない
そこにどんな理由があったのかなんて誰かが決めてくれるさ、気に入ったやつだけ拾っていけばいい
行けよ
行きなよ




俺は小便に行くからこの文脈はここで終わりにするよ
抱いたまま行っても一緒に飛ばしちまいそうだからな





自由詩 冬の夕暮れに便所に立つまでのひとつの乱雑な考察 Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-02-07 22:02:50
notebook Home