星空を見上げる
フミタケ
夜
車を走らせていると路面には
頭から脳漿を垂れ流した犬が
しんでいるのをよけつつ
あたらしい仕事を探そうかなどと
ニールヤングを聞く
ちょうどいい音楽だ
ちょうどいい音楽なのに
「heart of gold」
なんて言葉を歌う
「おやすみ」だけをかわしつづけて
ちいさなサヨナラをくりかえしては
何かつなぎあわせようとしているの
体もつなぎあわせたいのだろうに
見上げれば今夜は星が綺麗だよ
かなしみを生たまごの殻のように抱き
マンドリンの響きが小さく轟いてる
音速で飛ぶジェット機の爆音よりも
深く突き抜け轟いていく
ささやき
もう死んでしまったあの人が
子供の僕に見せた星空とおなじ
あの星の瞬きが今ゆっくりと
東から西へ流れていくように見えるのは
僕の目の呼吸のせいかな
自転する地球の賜物なのかな
隣にいた誰かがまた
僕を削り取って西に死んでいき
誰かの新しい愛がまた
歌うように東からうまれていき
葬送と産声の惑星で
生きる喜びを噛み締めるために
まるで林檎をかじるように
誰もが恋をおいかけて僕は
君のいる街の君のいる部屋の君のベッドまで
すぐに飛んでいけそうな気がしてる
首が痛くなるくらい垂直に夜空を見上げ
その視線の先にあるのは
気が遠くなるほどの
誰一人いないさびしい広大な世界で
もし君も同じ星を見上るとしたら、
そこにはどれだけの角度の違いがあるのだろうか
下弦の月がそこにはあって
誰もあえて語ろうとはしない
下弦の月がそこにはあって
街の雑踏から潮の満ち引きにまで
閉じていくその大きな流れにのなかでも
かまっていられずダダをこねつづけるように
血をたぎらせて燃えているから
言葉にならない小さな声に
形にならない物語の欠片に
なんにもない夜明けの海のおしながされた静けさに
視線を向けて
スポットライトのように
ひとつひとつを
ストロボライトのように
瞬間と永遠を
またたく星の透き間に
シューティングスターを
拾い上げていくならさ
間違いなく聞こえるよ
詩の音を聞け