10
イシダユーリ

彼女は
丘の上に
住んでいて
彼女の家のまわりには
花がたくさん
咲いている
冬も
夏も
秋も
春も
彼女は
そこに座っている
おはなばたけ
とても
きれいで
おはなばたけ
とても
きれい
彼女が
すてきだと
いつも
いうから
わたしは
興味がない
この世界に
笑いかけなきゃならなかった
すてき
すてきだよ
彼女は
おうちの
近くでいつも
座っていたのだけれど
おうちは
よく見えなかった
彼女のからだが
大きすぎたので
なにも
よく見えなかった
わたしは
思うかぎりの
男や
女を
連れて
彼女に
会いに行った
彼女は
そのたび
すてきね
すてきね
と言って
わたしは
思うかぎりの
男や
女を
凌辱
しなければ
ならなくなった
すてきね
すてきね
まるで
胸が
剥がれおちるようだ
彼女の
おうちには
生きているものが
なにもいない
なにもいなかった



そして
臓腑
臓腑
臓腑
そして
海や
木や
夕焼けや
雑踏

貼り付けられて
いる
きれいね
きれいね
いつでも
きみのいえは
火事だ
みな
燃えてしまう
息が荒いことも
みんな
覚えている

彼女は言った
男や
女は
わたしに
凌辱された
ところで
わたしを
罵倒する
くらいのものだったけれど
幾人かは
彼女の
家に
いつのまにか
転がっているもので
わたしは
虫を
盗んでは
食べる
まるで
胸から
石が
生まれるようだ
彼女は
いつも
笑ってこう言う
ねえ
思ったとおりだったでしょ
ぜんぶ
わたしの
思ったとおりだったでしょ
いつでも
火事だから
みな
ゆっくりと
逃げ出すのよ
それは
とても正しい
ひとびとのすがただと思うわ
わたしは
それを
とてもよろこぶの

彼女のからだは
とてもおおきかった

彼女のからだは
とてもおおきかった

命がとても軽いから
命がとても軽いことを知っているから
わたしは
まだ生きていくことができる

ねえ思ったとおりだったでしょ
だれもだれかのことを
こわがらないことなんか
おこりえないのよ
みなふるえだすわ
それはわたしだけのことではない

命がとても軽いから
わたしはきみを殺さない
命がとても軽いから
わたしはわたしを殺さない
命がとても軽いから
きみはわたしをかわいいと言う

わたしはまだ生きていくことができる

みなふるえている
肉が感情になるのを恐れて
けれど火事に縫いとめられる
目が輝くのを知るから
ふるえながら
ああ彼女のからだは
とてもおおきかった
それはたとえ話ではない
ねえ思ったとおりだったでしょ
命は軽いから
わたしたちは
正しく年をとっていくの


自由詩 10 Copyright イシダユーリ 2010-02-06 14:52:25
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