メイプルシード
佐野権太
かつん、とネジが落ちてきて
気づいたの
あの銀色の月は
機械仕掛けなんだって
黒い蝶が
りらりら羽ばたいて
夜の甘水を渡っていく
世界が
どんなに張りぼてだって
眼に映るものが
やさしければ
いいよね
・
長い、永い呪文の果てに
樫の扉はひらかれ
垂直な光が立ち上がる
蝶たちが輪になって
硝子のハンドベルを鳴らすたび
りんぷんが弾けて
そうして朝は生まれる
あなたは
テーブルクロスの
カモミールティと
書きかけの手紙を
手がかりにしてね
追いかけて、乗り越える
なんて
わたしもう
ひとつもしないで
たわいのない想いだけを
大切につむいで
そうして
ちいさな種になるの
・
のぞき込む鏡の
瞳のなか
見つ合う
みぎの頬とひだりの頬
ほんのり
幼い花を咲かせる
よく分かったね
だってそれは
あなたに会うまえの
わたしだから
鳶色にぬれた
微かなおもかげだから