メイプルシード
佐野権太

かつん、とネジが落ちてきて
気づいたの
あの銀色の月は
機械仕掛けなんだって
 
黒い蝶が
りらりら羽ばたいて
夜の甘水を渡っていく
 
世界が
どんなに張りぼてだって
眼に映るものが
やさしければ
いいよね
 

 
長い、永い呪文の果てに
樫の扉はひらかれ
垂直な光が立ち上がる
 
蝶たちが輪になって
硝子のハンドベルを鳴らすたび
りんぷんが弾けて
そうして朝は生まれる
 
あなたは
テーブルクロスの
カモミールティと
書きかけの手紙を
手がかりにしてね
 
追いかけて、乗り越える
なんて
わたしもう
ひとつもしないで
たわいのない想いだけを
大切につむいで
そうして
ちいさな種になるの
 

 
のぞき込む鏡の
瞳のなか
見つ合う
みぎの頬とひだりの頬
 
ほんのり
幼い花を咲かせる
 
よく分かったね
だってそれは
あなたに会うまえの
わたしだから
鳶色にぬれた
微かなおもかげだから
 
 
 
 
 


自由詩 メイプルシード Copyright 佐野権太 2010-02-06 13:11:22
notebook Home