白道めぐり
古月

行き会へる不幸を悼むものあれど
生まれの幸を思うものなし


 *


嗚呼
漸く伸ばしたって泥濘みの底の
銀色が三日月の切先なら
それで何に成るわけでもなし


虚の中は暖かくやわらかで
しとりと濡れた肌に心地良い
女が云う
ねえ
奥へ往きましょうよ
だってこんな処では然も
覗いてくれと云わんばかりでしょう


喩い
食うや食わずの日を知らぬとて
何の罪でありましょうや
そんなに苦労が偉いと云うなら
川原の乞食にでもなれば善ろしいのに


女の吐息が鼻の奥をくすぐると
目の玉の奥の深い処が痺れ
白い靄の中から差し出される
長い長い腕のなお白いこと
行く先の見えぬ真白い闇のなか
不思議と心は安らかで
恐れはない


瞼を塞いでお遣りよ
何処の誰とも知らない
女が微笑む
人は死んだら仏に成るってさ
そりゃあ随分と嬉しゅう御座んすね
雨は強くなるばかりで
一向に止みそうにない


満開の桜が咲く
白い道の上を
わたしは手を曳かれ
歩いている
牡丹雪のような花びらが
舞い落ちては積もり
それがまた風に浚われては積もり
往く先に白い道を作る
手を曳く人の顔は知れないが
何処か懐かしい匂いがする
柔らかな手の平の感触は
いつか
どこか


何故生んだ
何故生んだと
鳥が鳴いた
そう云った


気がつけば
瞼を浸す泥の川にいて震える
腹の奥が酷く熱い
触れれば触れた悉くが痛み
凍える頬を叩く雨は温い


 *


白きみち御首は落ちて流るれど
都の唄をぞ口遊みける


自由詩 白道めぐり Copyright 古月 2010-02-06 05:22:33
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