幸福論
山中 烏流
古い学童保育の前で
私が気付いた影は
小さな二つだった
ちょっと気の強そうな背の高い子と
その影を踏んで歩く、少し小さめの子
見覚えのある景色に微笑みながら
私は、その後ろを通り過ぎる
二人は
まだ雪の残るキャベツ畑から
雪球を作っては、投げ
目を合わせて笑い合っては
楽しそうに
どこかへと、駆けて行ってしまった
道で溶け始めた雪が
近頃は
凍ることも無くなって
確か、いつか見た景色の中には
かまくらや雪だるまが
小さいながらも
そこかしこにあった気がした
あんなにも大きかった空き地は
数年見ない間に
駐車場になっていて
もう、そこで
霜柱を踏んで遅刻することも
鬼ごっこすることも無いかと思うと
ほんの少しだけ
寂しくなったりする
***
内緒で開けた、屋上の窓と
そこから
一人で見た夕日
きみを選ぶことで
私は
私だけの世界と、その言葉を捨てたこと
小さな頃と
中くらいの頃と
今の話
ついさっきまで
私の手のひらが、こんなにも
人間らしくあることを
知らなかったものだから
きみや、それら誰かが去ったとき
同じように
私も消えてしまうのだとばかり
思ってしまっていた
雨上がりの遊歩道で
行き先に迷う最中
虹に出会った日
私が知らないときのきみと
それを知る誰かと
それを楽しげに話す、きみの姿
そして
きみや誰かのことで
世界が変わる、私の姿
***
甲州街道沿いの道で
二人乗りの自転車を見た
痛そうに膝をさする女の子と
凄く複雑な顔をして謝る男の子
これにも見覚えがあって
私は、気付かれないように
そっぽを向いて笑う
それでも楽しそうに走り去る二人は
どこまでも純粋で
世界はこんなにも美しい、と
私は
一つ、呟いた