月とオカリナと詩片
仁惰国堕絵師

昨晩は寝ようと思い床につくもなかなか寝付けず。
起き出してきては、どうしたもんかと考えていた。
ほてった頬を冷ますのに、私にはあの冷えた空気がしばし必要だったのかもしれない。

窓から外を見ればつい先頃の夜の雪など嘘のような、晴れ渡った夜空に月が浮かんでいた。
先日のブルームーンも美しかったが昨晩の月もまたよい月であった。

今の季節は空気が澄んでいるせいか、昼間でも月が見える日がある。
そんなときはついぼんやりと空を仰いでしまうのだが。
昼間にその存在を確認できる感動を除けば、やはり月は夜のものだと勝手に思っている。

窓から見える月を眺めていたら、ふとオカリナの音色が恋しくなる。
”本谷美加子”の”Ocarina”というアルバムを聴いてみたりした。
私はこのアルバム1曲目の”風”という曲が好きなのである。

最初にこのアルバムを手にしたとき、ライナーノーツの一番最後には詩片が記載されていて、私は音を聞く前にまずこれを読んだ。
その時、私は直感的に”この人、好きなタイプだ”と感じた。

  ほてった頬で歩く夏の夕暮れ
  廃線になった線路の上を
  ずんずん歩く

  小高い丘にさしかかる
  煙突、車、工事現場
  遠くは音のない世界

  遠くを見ると過去が見える
  線路の向こうには
  明るい光しか見えなかった

  もうとりかえしがつかない・・・
  遠くを見てるといつもそう思う

  夏の夕暮れ
  ほてった頬で
  ずんずんずんずん ずんずん歩く

Youtubeで”風”を検索してみたが該当する曲がなかった。
その代わり”本谷美加子”というオカリナ奏者の活動を少し垣間見ることの出来る動画を見つけた。
彼女は四国巡礼の旅、札所八十八カ所を巡り、それが本にもなっているらしい。

冬の夜空に浮かぶ月、オカリナの調べ、そして詩片。
昨日はこんな夜にいだかれて、眠れない私のほてった頬もいつしか冷めてゆき。
そして改めて床についたという次第。

目覚めて、夜の余韻に惹かれながら空を見上げれば。
空に昇った太陽はもはや一日の始まりを告げた後であり。
昨日の月夜も、先日の雪夜もまるで嘘のように。
冬の神経質な光の矢を地上の全方位に向けて容赦なく投げかけている最中である。

  もうとりかえしがつかない・・・
  ずんずんずんずん ずんずん歩く


散文(批評随筆小説等) 月とオカリナと詩片 Copyright 仁惰国堕絵師 2010-02-05 01:30:29
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