月面航海記(雨の海)
楽恵



白く獰猛な太陽は
月面の果てしない砂(レゴリス)に生命を吸いとられるように沈み
僕の銀色の船は水のない海(マーレ)を
宇宙の闇夜に揺られながらゆっくりと航行する。


僕は今、雨の海に来ている。
太陽の直射日光を避けるための眼鏡を外し
航路を再確認する。

雨の海の南にはカルパチア山脈、さらに下ってその南西部はアペニン山脈、東にはコーカサス山脈が広がっている。


僕はこれから雨の海を越え、虹の入り江をめざすところだ。


月の海はなぜか、ほとんどが地球のほうを向いている。


海は、たとえここが月であっても、
あの深い青色を恋しがっているように思える。

こんなに遠く離れたところまで来て
僕がまだ君を恋しがっているように。





自由詩 月面航海記(雨の海) Copyright 楽恵 2010-02-04 21:09:11
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