じゃがいもの小旅行
中原 那由多
都会を知らないじゃがいもは
わけもわからず大阪方面の電車に乗り込み
その行く先を疑いながら
車内アナウンスだけを頼りにしている
スポーツ新聞の大きな見出しは
仕事とばかりにこちらに笑いかけてくるが
生憎と、そんな遊びをする余裕がない
都会に憧れるじゃがいもは
普通から快速に変わった車両の中で
孤独を紛らわせることが出来なくて
ポーカーフェイスを気取って焦りを隠そうとする
携帯ゲーム機の画面に出ていた“GAME OVER”が
当て付けにしか見えなくなって
狸寝入りすら出来なくなった
都会に染まりたいじゃがいもは
何を思ったか三ノ宮で降りてしまい、新快速で芦屋へ向かう
置いてきぼりされたものを見捨てることを
結局、メロスはしなかったのだから
楽観的に腕時計の秒針をじっと眺めて待つことにする
鞄には大したものが入ってないのに
変に重く感じるのは何故だろう
都会を勘違いしているじゃがいもは
プラットホームを駆け抜けて
苦手な乗り換えをしようとしている
西宮に行けばいい
ただそれだけを考えていると
大したものが入ってない鞄は
やっぱり軽いものだった