アッキーの声を聞きながら / 奥主 榮
鵜飼千代子
そこに虫がいるから
歩く 止まる 歩く 止まる 歩く 止まる
を しなければならないのだと
アッキーは言う
歩いては止まるのではなく
歩いて 止まってでもなく
歩く 止まる 歩く 止まる 歩く 止まる
という言葉を 何度も何度も
けたたましく繰り返すアッキーに
僕の目よりは 一匹の虫を
ずっと大きく見ているのだと思う
お母さんは アッキーのそんな命令に
もう慣れっこになっているのか
知らん顔して歩いている
僕は
歩く 止まる 歩く 止まる 歩く 止まる
まではしなくても
そういえば 足元の小さな虫が
あっちへ行ったかと思うと
こっちに進んできたり
こっちにいたかと思うと
あっちの方に すたこらさっさを
身をかがめ アッキーと同じ
目の高さで見ようとしている
アッキーの声を聞きながら
1997年 7月 24日 奥主 榮
初出 NIFTY SERVE 旧 FPOEM
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