お風呂場で考え事をする
なき
雪が降った。私の住んでいるところはいつも降らないので、少し嬉しい。ただ寒いよりも、明日の朝、屋根が真っ白になっていたり足元が凍ってつるつるしたりするのが少し嬉しい。
でもそれはきっと非日常だからなのだと、いつもより熱いお風呂に浸かりながら考える。
風呂場の窓を開けると、雪の結晶の塊が真っすぐに柔らかく落ちていくのが網戸ごしに見えた。しん、とした気持ちになる。雪の降るのを見ていると、小さな頃に何度も読んだ『小さなおうち』という絵本を思い出した。作者は忘れてしまった。取り残される、小さなおうち。窓から湯気が出ていって、熱いお湯で赤くなってしまった二の腕にひやりと冷気がこぼれる。静かに窓を閉めて、もう一度湯舟に浸かった。
住宅街に家があるので、いつも窓を開けるといろんな声が聞こえる−−小さな子どもの泣き声とか隣の家のシャワーの音、後はテレビや人の不鮮明な話し声とか−−のだけれど今日は何も聞こえなかった。きっと雪が音を吸い取ってしまったのだ。空気中のゴミと一緒に。
小学生の頃、地面に着く前のものはみんな清潔だと思っていた。雨も雪も、桜の花びらなんかも。そういうものが降ってくると、なんとなく口を開けて上を向いて歩いた。雨や雪が口に入ると冷たくて楽しかった。花びらは口に入るとしわしわになって噛むと変な味がした。いつの間にか降ってくる雨や雪や桜の花びらが意外に汚れているらしいことを知って、口を開けなくなってしまった。
明日の朝は寒さで線路が縮んで、電車の音が大きく響くだろうな、と思う。