二月のはじめに降り続く雪の
あぐり




二月のはじめに降り続く雪の
その多すぎる水分に浸りながら眠っている
白い指の腹を瞼にあてては
薄明かりに浮かぶ声を亡くしたさかなたちを
夢から逃がしてやろうと
眉間に埋もれている記憶のかたいところをはずして
少しずつ少しずつ、海を零していく

このやらかさを
なにもやさしさだなんておもったことはなくて
あたたかさに比例して重くなる世界とは
いつだって肉薄していた肌にひびが規則正しくはいっていくのを見つめている
小さな嘘を降り注いだからきみは、
ぼくのこと 幸せ なんだと嗤っているよね

二月のはじめに訪れた海の
その浜辺でぼくときみはただしくさよならをして
水面に積もる雪の方がずっと
ぼくにはきれいに見えていたよ、きれいに、きれいに
きみの横顔に触れたこともなくて
ぼくの嘘を信じていなかったきみには
今、傍にいないぼくを嘘吐きだなんて呼ぶ資格はないんだって、知ってる?

鈍色の空から降り続く雪は
あの海にもまた降り積もるんだろうか
きみは今日もひとりで深く深く眠っていて
多分、ひとかけらの夢もみていないんだろう
ぼくの鼓膜を悴ませている
二月のはじめに降り続く雪の
淡く凍り付いた白さはやっぱり
きみの前髪からのぞいていたその瞼を
ぼくの瞳から流し込んで思い出させている
溢れている、瞳のふち。
薄明かりに浮かぶあの日の嘘を
ほんとのことにはもう、したくないんです




自由詩 二月のはじめに降り続く雪の Copyright あぐり 2010-02-03 23:02:21
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