((いちご)のつぶつぶ。)革命
夏嶋 真子


赤くて甘い熟れた先端よりも白くて硬くてすっぱいお尻を
齧ったときのほうがずっと春に近づけるんだってさ。
朝から晩までへたのまわりに齧りついたのに、今日の天気は雪です。
舌がただれて痛い。

女の子たちが大好きないちごのショートケーキは
イメージを食べるためのたべもの。
クリームの甘さにいちごの甘さはかなわない。
酸味がほしいならレモンやオレンジやキウイでいいのに
いちごじゃないと女の子にはなれないんだ。
乱反射するイメージ、
イメージに動かされている誰かたち。
その誰かたちに動かされているのはあたし。
彩ちゃんのコマーシャルが証明している。


 氾濫せよ。
 反乱せよ。


携帯用いちごをにぎりつぶして、自分になすりつけた。
白いブラウスの標高15センチメートルの突出が真っ赤に染まる。
果肉が薬指のつけねにまとわりついて生きものの匂いがする。
ねぇ、目覚めそうだよ、後もう少しで。

いらない、いらない、いらない。
じゅくじゅくでどろどろになったいちごはもう女の子じゃない。


 新たなるいちごのテーゼを提示せよ
 デルフォイの神託は下った。


煮詰めてジャムにするの、お砂糖をたっぷり。
視覚的な甘ったるさに犯されて
いちごの赤くて甘い熟れた先端はもうどこにも。
赤とそれ以外のいくつか、(たとえば後ろから2番目の思想のあの子、)の
イメージがまじりあう。

じゅくじゅくでどろどろになったものが本当の本当だったなんて
イメージたちよ! そんなこと勝手に決めないで。
あたしは今、純粋苺に生成されているんです、
空にジャムをぬりこめて
夕空だってつくれるんです。

肉体から液体をへて気化の途中で失敗してもいいんだ、
羽化するよりもあたしは苺の苺の真ん中に触れたい。
いちごジャムサンドを齧りながら、うんうん呻いていると
歯に何かがはさまって舌でからめとる。
「なんだ、つぶつぶか。」


 失われないということ、その。((つぶつぶ。))というつぶやき。


それが種だということにようやく気がついたとき
ちっぽけでつまらない素晴らしきもの、
あたしのまるみに挨拶をした。


 おはよう。そして、こんにちは。


いちごのつぶつぶを数えているうちに
あたりは春になっていた。





自由詩 ((いちご)のつぶつぶ。)革命 Copyright 夏嶋 真子 2010-02-02 21:22:45
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