たもつ



ゴンザレス、生まれてこの方メキシコ人
今朝も早くからメキシコ風のシチューを
食べる
ゴンザレスを見守るゴンザレスの兄
生まれてこの方メキシコ人の兄
港の町では遠い海で漁をする季節
漁師ではないからゴンザレスもゴンザレスの兄も
船に乗らない
そんなメキシコ人の兄弟から恐ろしく遠いところで
僕とまだ幼い娘はボルシチを食べる
それもまたいつかの遠い話
そして食後
娘と昼寝をした


受付番号113番の僕はまだ呼ばれない
114番の娘は届かぬ足をブラブラさせている
待合室はひんやりとありふれていて
どこにも発車しない
採血室の前で人々が一斉に脱脂綿で左腕を押さえている
娘が描いたその絵をどのように褒めるべきか考えていたが
娘はまだ脱脂綿という言葉を知らない
話さなければいけないことは沢山ある
そのいくつかを話し
やがて待合室を後にすると
娘と昼寝をした


悲しいことがあると裏の森で鉄砲を撃つ女の話
小さい頃は列車の運転手になるのが夢だった
ふとある日、列車の運転者になることはできないと知り
すべての弾を撃ち尽くしてしまった
それでも悲しいことがあると鉄砲を撃ちに裏の森に行く
鉄砲の音は?
バン!バン!
三回聞かせたその話のいつも同じところで娘は笑う
女は一度も笑ったことはないというのに
僕も娘といっしょに笑う
四回目の話を終え
娘と昼寝をした

どちらが先に寝付いたか
僕は知らない
娘も知らない

誰も知らない
誰も知らなくていい話








自由詩Copyright たもつ 2004-09-26 09:43:26
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