綺麗な町
山中 烏流






夕暮れの町を潜る

そこは、綺麗な町

雪を踏む音が響く

電柱の影、重なる少女


烏の親子

頭上から影を降らす


右に立つ案内板の文字


「綺麗な単語に溢れた町

 それだけの町」





***





咳の音と
それを羨む周りの声

私は旅をしていた

瞬間
それすらも忘れていた


それは自分たちにはないものだ、と
笑う少女の声で
立てられた案内板の前には
たくさんの人が現れた


綺麗に磨かれた虫眼鏡と
きらきらに光る、たくさんの瞳と

綺麗な単語で作られた
ほんとうに綺麗な、囁きと会話

私は
それらに囲まれて
視線を泳がせた





***





広場の奥の方で
雪だるまを作る、少年の影
手に嵌めたミトンは真白

私の方に視線を向けることもなく
大きさの増していく雪球を
黙々と
転がしている


少女の一人に
少年のことを尋ねるも
わたしにはわかりかねます、と
困った顔をされてしまった





***





この町を通ってもいいですか

 かまいません


この町に宿屋はありますか

 ございます


この町に少年はいますか

 わかりかねます


もしいた場合、連れ出してもいいですか

 わかりかねます


では、入ったときと出て行くときの人数が違うのは

 かまいません






***





夕暮れの町を出る

そこは、綺麗な町

雪を踏む音が響く

私と、もう一つの影


烏の親子

頭上から影を降らす


右に立つ案内板の文字


「綺麗な単語に溢れた町

 それだけの町」









自由詩 綺麗な町 Copyright 山中 烏流 2010-02-02 14:02:00
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