ノートのおと
あ。
■罫線
歩くことなんか出来ないってわかっていても
真っ直ぐに続く道を知りたかった
言葉はあまりにも無防備すぎて崩れそうで
その柔らかさを利用して思い切り固くした
発しては、ほろほろと溶ける
道しるべは多分正しいのだと思う
それでも外れてしまうのは
正しさゆえの誘惑なのだろう
■表紙
話すことが上手くまとめられないのは
口下手と夜の長さのせいにしておいた
はちきれんばかりの思いを言葉にし
綴ることを覚えた頃からだろうか
口の役割はどんどん少なくなっていった
出来うる限り、前を向く
中に詰まった様々な色を覆うように
皮膚が縮みそうな熱に気付かれないように
似合いもしない厚化粧を施して
空っぽの威勢を飛ばしているのだ
■ノート
わたしは
何枚も綴られた一冊で出来ている
抱えきれないほどの幸や不幸を
こぼれ落ちてしまった日常を
太陽の光も月の満ち欠けも
風の匂いも季節の捜索結果も全部
これ以上吸い込めないほどに染み込んで
ふと足を止めてめくってみれば
綴りきれなかった言葉がとろりと滴り
リズムを持って打ち付けてくる
耳の遥か奥で刻まれる、ノートのおと
物語の終わりがいつなのか分からない
幾度も繰り返している起承転結を
呆れるほどに書き連ねたオチのない話を
うまく動かない口の代わりにペンを握り
示してくれる道筋にその先端を押さえつけ
新しい頁にそろそろとインクを落とす