雪と母
ゆるこ

しんしん、と
二月の雪の中に 母は溶けた
ゆうゆう、とした その表情は
茜色のきおくと 夜の闇が混ざった
やさしい 混沌、だった

(冷たい、真っ黒な腕で その先で 飴玉みたいな瞳がゆらゆら、)
(雪化粧が、きれいね、とっても)

リビングに落としていった あなたの大好きな黄色のベッドはまだ春で
ましろなシーツのあかぐろは まだ秋だった

(ボタン雪がきれいだね、アスファルトが白濁(よご)されているよ)
(まだ、溶けてしまうの?)

シャントが雪のなかで静かに破裂したのは
夜明け前で、空が隠してしまったの
あなたの大好物は
まだ、賞味期限が切れていないよ

(今朝見た初雪に混ざっていた)
(かわいいかわいい子供の瞳は)
(どうしようようもなく あなただって)

しんしん、世界の隠蔽がやさしく進む
四畳半の世界はめまぐるしすぎて 声すらかれたよ
ゆうゆう、と マイペースに流れる時間に
私は隠れたかったんです、

(まあるい雪がきれいだね)
(あなたの笑顔 みたいだね)





自由詩 雪と母 Copyright ゆるこ 2010-02-01 20:55:43
notebook Home 戻る  過去 未来