振り返るひと
恋月 ぴの

疲れてきたのかな?

女子マラソン観てたあの人がつぶやいた

どれどれとテレビの画面を見やれば
折り返しまで先頭グループにいた選手が何度も後ろを振り返った

背後に見えるのは何なんだろう

迫り来る選手の姿とか見えれば追いつかれてしまう恐怖にかられるだろうし
何も見えなければ見えないで底知れぬ不安に捉われてしまう気がする

これからが勝負ってときなのにね

不規則に乱れる両肩はみるからに苦しそうで

まるでわたしたちみたいだよね
ウソっぽく
それでいて本気交じりなわたしの想い

あなたは敢えて答えようとせず
トップの選手は決して後ろを振り返ったりしない
そんなことばを画面に向かって吐き捨てた

人生はマラソンみたいなものって言われるけど
長いようで短かった人生で諦めと引き換えに得たもの
それは明日への仄かな希望というか
未だ扉は閉ざされきってはいないのだという不確かな手触り

それでもあなたは優しいから
抱きしめられれば厚い胸板からは吸いさしの臭いがして

俺も疲れてきたのかな?

問いかけられたことばの背後に見えるもの

たぶんねと苦笑交じりに答える連れ合いの姿であり
ささやかな殺意を秘めながら生きているひとりの女の姿でもある





自由詩 振り返るひと Copyright 恋月 ぴの 2010-02-01 20:29:21縦
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