上澄み
山中 烏流
浴槽に声を浮かべて
その上澄みから
綺麗なものだけを選んで
束ねたあと
それを
誰かの届く距離より
少しだけ、遠いところに放る
そして、わたしは
誰かがそれを追いかける間に
何にも
気付かないふりをして
深く
沈もうとする
***
言い忘れた言葉は
その定義に、当てはめられたように
排水溝に向かって
ゆっくりと
水中を下っていく
太りすぎて
入り口を潜れないわたしに
それらは
口を開かずに
ただ、下っていく
***
そのひとが気付いたとき
わたしは
どこまでも平坦で
それはそれは
地面によく似た姿だったという
過ぎるものがないまま
轢き潰されたわたしのことを
そのひとは
そう言って、笑ってから
踏みにじった
***
どこか楽しげな場所で
離されてしまった風船の屑が
上澄みをくすぐる
誰かに渡される筈だったそれは
水面に
小さく波をたてたあと
同じように
深く、沈んでいった
わたしは
それに知らないふりをして
上澄みを汲み取って
僅かに残っていた、その屑ごと
誰かの先へ
また、
放り投げる