上澄み
山中 烏流




浴槽に声を浮かべて
その上澄みから
綺麗なものだけを選んで
束ねたあと

それを
誰かの届く距離より
少しだけ、遠いところに放る


そして、わたしは
誰かがそれを追いかける間に
何にも
気付かないふりをして

深く
沈もうとする



***



言い忘れた言葉は
その定義に、当てはめられたように
排水溝に向かって
ゆっくりと
水中を下っていく


太りすぎて
入り口を潜れないわたしに
それらは
口を開かずに
ただ、下っていく



***



そのひとが気付いたとき
わたしは
どこまでも平坦で
それはそれは
地面によく似た姿だったという

過ぎるものがないまま
轢き潰されたわたしのことを
そのひとは
そう言って、笑ってから

踏みにじった



***



どこか楽しげな場所で
離されてしまった風船の屑が
上澄みをくすぐる

誰かに渡される筈だったそれは
水面に
小さく波をたてたあと
同じように
深く、沈んでいった


わたしは
それに知らないふりをして
上澄みを汲み取って

僅かに残っていた、その屑ごと
誰かの先へ
また、
放り投げる










自由詩 上澄み Copyright 山中 烏流 2010-02-01 06:27:34
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