こんにゃく(に)
小川 葉
ミュージシャンを夢見て
君はひとり
こんにゃくを背負って
旅立っていくのだった
あれからどれくらい経つだろう
生きていれば
誰もが思う
あの日
何かを間違えていたのかもしれないと
ミュージシャンも
夢も
こんにゃくも
今はとてもありふれた
言葉になってしまっている
テレビを見ると
いい歳をして
知らない若い歌手の背後で
君はひとり
こんにゃくを抱えていた
あの日君がおしえてくれた
こんにゃくの弾き方
激しくて
壊せるものは壊してしまえ
という
まだ君らしかった君は
もうどこにもいない
いったい僕らは
何を背負ってしまったのだろう
間奏になると
君の手元にカメラが迫る
迫りすぎて
こんにゃくにライトが反射して
もう何も見えなかった
それから僕はひさしぶりに
埃のかぶったこんにゃくを
押入の奥から出している
生きていれば
誰もが思う
何かを間違えていたのかもしれないと
間違えたまま
ここまで来てしまったとしても
というような気持ちになって
下手くそなこんにゃくを弾きはじめる
そのよさは何かと
妻と息子に問われることもあるけれど
何もこたえられなくて
それでいいと思っている