辿り着きたい
高梁サトル
紺碧の空が紅く燃えている
何かを予言するように
逆方向に流れていく 蜂蜜色の雲を眺めていた
握り締めている 何度も確認した時刻表は
文字が見えなくなるほどかすれて 消えて
蝶の羽ばたきのように軽い記憶だけが
鱗粉の舞う向こうに 蜃気楼のように揺れている
鼓動より少し大きな振動に身を委ねて 目を閉じる
駆け出したいつかの後ろ姿が
幾条もの白い糸で瞼の裏に編み込まれて
緩やかな残像の軌跡を描いてゆく
一体何処に繋がっていくのだろうと
目を凝らして
・
奥深い襞の間で
メトロノームの針が過去と未来を反芻している
終わることのない旅路を
使い古されたあらゆる言葉で綴ってゆく
愛を練習する日々は
母の体温のように気だるくて
起き抜けのミルクティーのように甘い
そんなものにずっと囲まれていれば
当たり前のように怠惰を覚えていくのかな
私たちは私たちの ルーツを探しに行きたい
・
熱い真水を飲み込むたびに溢れる 水瓶を覗き込めば
少年の歓声と少女の讃歌が
濁流のように渦巻いていて 目眩がする
体ほどに澄んでいられない
心が疑問を感じることさえしなくなるくらい
私 清らかになれたらいいのに
・
1オクターブ上がるごとに薄くなってゆく
酸素を深く取り込んで
鳩尾を膨らませるときに紅潮する頬が
いつかの日に産声をあげた
きみとそっくりなこと 話せたらいいのに
「愛してる」の耳鳴りが止まないの
・
法螺貝から聞こえる牡牛のうなり声が
深い海底から静けさを連れてくる
天鵞絨の波間に微光する
あの真珠たちを飲み込めば
もう一度途絶えた想いを宿すことだって出来るかもしれない
「信じてる」と言い聞かせて 愛する人
・
どこからか転がってきた
見たこともないラベルの空缶が
固くした爪先に当たって
落とした視線の先で息を整える
沈黙が鼓膜を震わせている
瞼の錘によじ登って
銀緑色の丘の上から眼下を見下ろせば
水平線から生まれたばかりの
三日月を見つけて 手を差し伸べる
この優しい同乗者と
静かに寄り添って行けるところまで
夢現に更けてゆく
夜は少しずつ速度を増して
私を運ぶ