Sati
あぐり




ねぇ、すぐに焼かれて死んでね

って
きみに言われたのに、生きてる
わたしは焼かれなきゃいけなかったのに生きてる

きみがいなくなってから
夜の深みはふくれあがって弾けそうです
きみがいなくなってから
朝のまぶしさはわたしを削りとります
ねぇ、すぐに焼かれて死んでね
きみが言い残した言葉は
わたしのなかになんにも生かさなかった

川岸で煌々と揺らいでいる炎をみている。
ずっと
いつ飛び込めるかってわかんないんです
青貝の蝶たちは羽を焦がしながら舞い散りますが、
わたしの指はまだ白く濡れて
つめたい、な
なんてことを流れる雲の下で反復して呟いてる

わたしが焼かれるのは
きっときみの意志なんかじゃなくてさ、
この世界に追い立てられるからなんだよ
ひとりじゃ生きてけないんだろうって
そういう風に世界は廻ろうとしてる
きみがいなくなった途端にわたしの背中にみんなが手をあてて
ひとりじゃ生きてけないんだろうって
ねぇ、焼かれて死んでね。
焼かれて死んでね。

わたしは、
ほんとは焼かれても良かった
それがきみを生かすなら
消し炭にされたってそれがきみを生かすなら
いつでも燃える世界の中で溺れられたよ
きみがいなくなってから否定することを誰もが肯定するんだけど
それは彼らにとってのきみが死んだっておんなじで、
みんなみんな
誰かの為に誰かが死ぬなんて事を夢見てるんだろ
燃える足下の影。

(ねぇ、焼かれて死んでね
焼かれて死んでね
焼かれて、跡形もなくなって、僕の為だけに死んでね
きみなんて僕が死んだら生きてけないんだから
僕の為だけに死んでね)

どうしてもそんなにわたしはやさしくなかったみたいで
あの人が生きるためにならわたしはぜったい死ねたんだろうなっていう確信だけ
それでもみんなが燃やせ、燃やせと叫んでいるから
きみの名前を呼んでた声だけ
炎の中に投げ入れた

爆ぜて、空を薄くした名前はもう知らない
ねぇ、焼かれて死んでねって
そういったきみの気持ちはもう燃えたかな






自由詩 Sati Copyright あぐり 2010-01-31 22:41:28
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