クスノキに逢うための習作(2)
長岡瞬
ぼくの部屋が
放課後の基地でした。
屋根裏部屋みたいになっていて
そこで
よく自分の声を録って
友達に聞かせていました。
毎日布団をベランダで
干していました。
ぼくはいつも
おねしょをしていたのです。
雨が降り続いてしまうと大変でした。
それでもぼくは布団を
朝学校に行く前には
からなずベランダにだしていました。
それがすむと
ぼくも
がっこう
に
いきました。
毎日、友達と一緒に
布団を部屋(基地)に取り込みました。
「おやすみ」
とぼくは
部屋(基地)で遊んでいた友達にいいます。
友達は帰ってくれます。
ぼくは
ぼくの声が録音されていた
音響機械をおもちゃの包丁で斬ります。
ままごとで使われるあの包丁です。
マジックテープの部分を斬るあの
おもちゃの野菜たち
とおんなじように
それは
正しく
斬れました。
朝日が感じられると
台所に行き
母親が昔使っていたほんものの包丁を持って
暴れるフリをしました。
母親に叱られるフリをしました。
父親にゲンコツをもらう
フリをしていました。
そうしてぼくは
おねしょをするために
布団の中に隠れます。
ほんものの包丁を抱きしめる形になって。
そうして初めて、眠るのでした。