それでは試験を配ります
瀬崎 虎彦
教壇から頭ごなしに説教をするタイプでもないので
例によって教室を歩き回りながら僕は話す
半年、あるいは一年ほどの付き合いで学生について
何ほどのことが分かるかと問われれば返す言葉もない
もっと話しておくべきだったという人との出会いは
いつも過ぎてしまってから気がつくもので
欧米の言語では過ぎてしまったというと
故人のことを指すことがあるけれどそれは正しい
君たちには輝かしい未来があるなんて
そんな無責任なことは口が裂けてもいえない
そこにないものをなぜ輝かしいと断言できるだろう
沢山嫌な目にあって必死で生きていくことしか出来ない
この教室よりももっと広い過酷な場所で必死で生きてくれ
それでは試験を配ります まあ適当にやってください
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教壇詩集