塩水とピーナツ
真島正人
前景化された思考などただの屑だ
弁当箱の隅をつつきながら
やせこけた男がしゃべっている
はて、はてはて、これは
イッタイいつの出来事だったか
胸の奥のわずらわしさに突き動かされ
思想焼けを引き起こし
浮ついた唇が
泡のような言葉を次々と吐くのだ
あの頃の独特の
ぱしぱしとぶつかるような
空気の音を携えとして……
安いものばかりでこしらえた
弁当には
人参、ごぼう、茸
大量のキャベツ
空き教室を利用していた昼食では
ラジオを聴くことを日課としていた
途切れ途切れ流れてくる
ピーターフランプトンの歌声と、
言いようのない心のうずきは
同じ言語を持ちそうで
持ち得なかったな、
傾向も対策も
英作文には関係がなく
恵子の花模様のハンカチのふくらみに
そっと託した唾液のにおいは
誰にも気がつかれることがなく、
母なる恵みよ!
大地から避けて出でる芽よ!
それは本当に答えだろうか?
見渡せば
色あせた背後には
ツツジ、石楠花、ヒナゲシ
閉じ込めたい闇の数は
いっそ数えないほうが良い
午後の圧縮された胆汁、
何ものかと格闘し
昨日、薄い胸に耳を押し当てたとき、
安らかに聴いたのは、
感情の音ではなかった、
空から、ほら。
温かい珈琲が降るよ。
星が出るまでまとう、豊かな、星が出るまで。
感情表現はきらめきのように現れ、消えて、また現れ
こんなにもたくさん、
何を洗うというのか
目配せ、目配せ、
目配せで通じ合うことは
そんなに悪いことなのか
そんなに僕たちは
哀れだとでもいうのだろうか、
机の木目の上に、
暗い色のペンチと画用紙、
食後の菓子に
ピーナツ、
書きかけた詩は
完成させる文句が思いつかないままであり、
聖堂から響く声、
雨の后、地の塩
角のへこんだロッカーには
幾億の夢が……、
やめてくれこんなむなしいことは
思い出ばかりで頭が痛くなる
あ、あ、あ、あ、前景化した
思い出はぬるぬるとして苔のようだ
底なし沼だ
そこですべると
終わりだ