クスノキさん
オンガシ
無彩色の交差点で
あなたは立っていましたね
行き交う車を眺める毎日
通勤人を見送る毎日
グレーの空気を吸いながら
そこに立ち尽くしていましたね
忙しい人々は
誰もあなたを気にとめません
そういうわたしも
あなたがあの強い雨の日に
傘となってくれたおかげで
やっと気付けた次第です
真夏には燃え過ぎる太陽から
そっと守ってくれますね
そんなあなたに話しかけると
さやさやと優しい心で応えてくれます
なのに誰もが通り過ぎる
人間は
ソラに飛び立つ術を知ろうとしても
傍に居るあなたの心を知ろうとはしない
地を忘れ届かない天を目指してしまう
不遇で悲しい性なのでしょう
あなたの聲に耳を傾ければ
この交差点にも色が生まれ
遮眼帯を付けた人々の眼差しも
変わっていくかもしれないのに
あなたの謌に耳を傾ければ
この無機質な交差点から
渾沌に戸惑う秩序のない世界が
変わっていくかもしれないのに
なのに誰もが通り過ぎる