愛の贈り物
ありす
おじいさんは杖をやっとの思いで丘を登った
家を出たときはまだ3時だったのに
今はもう夕日が丘の上からきれいに見える
おじいさんの妻であるおばあさんは
長い間病院で入院している
何かの衝撃で記憶を失ってしまい
おじいさんまでも誰だか分からないのだ
それでもおじいさんは
毎日毎日おばあさんのところへ通い続けた
足が痛くてよろめきながらも
しょっていた小さな椅子を肩から降ろして
夕日の方にキャンパスを立てた
絵の具を出して
オレンジ、赤、黄色。
老眼鏡を着けたりはずしたりしながら
塗って塗って塗って
ようやく出来上がったが何か物足りない
風景はそのまんま描いたはずなのに。
短い足を組んで考えて
黒い絵の具をチューブから出して
夕日に黒く小さく付け足した
おじいさんとおばあさんが
手を繋いで歩いているシルエット
足元に咲いていたピンクの花を数本取って
束ねた花を長い草でりぼんに結んだ
満足そうな笑みを浮かべて
よたよたしながらも足早に
おばあさんの居る病院へ向かった
そーっとドアを開いてみると
おばあさんは静かにに眠っていた
花瓶に水を注いで摘んできた花を挿した
描いた絵を壁に立てかけて
おばあさんの手を優しく握り
おじいさんは病室を立ち去った
ドアの音に気づいたのか
おばあさんは目を開けて
絵と花に気が付いた
誰からとも分からないのに
懐かしそうに小さく笑った
そしてまた眠りについた