きりんの首の骨
あ。

熱帯夜みたいなきみの瞳はもの悲しくて
ひとつぶの砂も巻き上げることはなかった
湿らせたのはほんのわずかな空間だけで
振り返った背中の先には象のおりと高らかな歓声


きみのその長い首を支えている骨を
ひとつずつ外していったらいつかは
同じ目の高さで見ることが出来るのだろうか
外した骨を注意深く積み上げてその上にのぼれば
きみが写すものを知ることが出来るのだろうか


きりん、ねぇきりん
きみが住む箱庭の向こうはガラクタだ
感情が幾重にも積み重なった美しいガラクタだ


マッチ箱にも似た家がかたかたと列をなす
舗装された道路がすき間をぬい
歩き始めた子どもは空を見上げる
緩やかな形を描いて飛ぶ鳥に
細く長い雲を吐き出す飛行機に
たった今その手を離れた風船に
知らない世界を思い巡らせ
真っ白なスケッチブックに色が乗る


動物園に動物がいるように
きりんを産んだきりんがいるように
ガラクタの世界にも親がいて
親から生まれた子どもがいるんだ


きりん、ねぇきりん
子どもは大きくなりたがってる
世界が広がるのをじりじりと待ってる


首の骨をかしゃかしゃと砕いてばら撒けば
もしかしたら空にも手が届くかもしれない
きみの瞳を正面から捉えられるかもしれない


さほど高くない柵から手を離し
持ち上げていた視線を足元に落とすと
わたしを支える首の骨が
ぱきりと小さく音を鳴らした





自由詩 きりんの首の骨 Copyright あ。 2010-01-25 13:02:35
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