憂愁の瓦
朧月
祖父が死んだ
ほんでもえらいわ
そう言って祖父は私の手を頼りに起き上がった
寝ているままでいい
そう言う私を制し
それは昨日のことだった
いつものようにコンビニで
祖母のおにぎりを選んだ
ついでに週刊誌も立ち読みして
のんきに病室へ向かうのが日課だった
ドアの向こうが
景色が 空気が
世界が違った
病室の白い天井が真っ黒になって
暗転
庭の花が凍ったまま起立する昼間に
祖父はこのうちを旅立った
長い読経に なにもかもの感覚は麻痺し
なぜか 笑みを浮かべ談笑している人を見つける
つめたい つめたい風に髪がとび
白い祖母の頭が
地面についてしまうかとおもったとき
ふあーん と
棺は発車した
うちの屋根には
最後まで祖父が気にしていた
自慢の瓦が
ぴかぴかと 青空にさえていた