言葉のない世界4(中庭)
ばんざわ くにお

ここは昔からある住宅街
入り組んだ迷路のように
私道がめぐらされ
住人達はみな年老いている

そんな家々に挟まれるように
ひっそりと小さな中庭があり
そこにはかつての愛犬の
小さな墓もある

ナズナとオギョウ
シロツメクサに
アキノキリンソウ
雑草が生い茂る中庭に
家族の思い出も埋まっている

そこを掘り出すな
庭の主の瀬戸物のカエルの目が
大きく開き
樹木もざわめいた

古い住宅街の中庭には
かつて住んでいた
人達が
今も住んでいる




【解説】
犬の散歩で冬の住宅街を歩いていると冬場は空気が
乾燥しているせいか、家々で生活する人々の営みの
かすかな物音もよく聞こえてくる。そんな住宅街を
歩いていると、ある荒れ果てた空き家の中庭が目に
入った。雑草の少し残った冬の中庭には何故か茶碗の
かけらがいくつかころがっていた。
ここに住んでいた人達はどこかにいってしまったが、
彼らの生活の営みの記憶は中庭にまだ残っていて
冬の日差しの中に所在なげにたたずんでいるようだった。


自由詩 言葉のない世界4(中庭) Copyright ばんざわ くにお 2010-01-23 16:44:19
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