「ピカソ」
月乃助


今日の鏡は
流体にちかいのです
あまりにたくさんの欲望を映し出し 
水銀の鏡面に、他人のわたし
髪を短くすぎるほどに切ってしまったまま
ばらばらになった抽象画の 
かけらが流線の色彩を
つなぎあわせ

力の抜けた顔で
そっと触れればそこから溶解しそうな、
流れ出る
ゆっくりとあとずさりをした
壊れてしまわないように 立ち去りなさい
少しのゆがみが 情事の水滴をつくっているのなら なおさら
現実にもどす 行き着く先をおしえてくれる
 
バスルームの
今朝が今日のわたしを選択する
昨日の陶酔を引きずりながら
いつまでこんなことを続けますか
満たされぬのなら いっそやめてしまえばよいのです
そんなことが、許されるのではなくて、
必要だと、言えば

わたしをあきれて見つめる
モクレンの花芽は、
きりきりと白く枝をにぎわわせて
そのなかに、身を潜めた
小さな綿毛のようなどれもが
やってくる春を疑いもしない
裏切られることのない 期待 を
それは、本当に確かなのです か
そうならば
う・ら・や・ま・し・い

鏡の中でわたしは、
モクレンになった
ひとつの結合体となって、
平面を蹂躙する

そこでは、でも
おまえたちばかり
ふつふつとあふれ出る
希望ばかりに 胸をふくらませ

幾何学的に伸びた枝でさえ
やはり、冬にたちすくむ
花木のすがたでしかないはずの
モクレンが
わたしのような
顔をして、






自由詩 「ピカソ」 Copyright 月乃助 2010-01-23 09:40:11
notebook Home 戻る