月面航海記(晴の海より)
楽恵

静かの海に来る前に、晴れの海に寄ったんだ
月の海、そうこの大きな穴ぼこ、クレーターは月の内部から湧き出してきた溶岩で覆われている
僕の銀色の船についている小さな窓からのぞいていると
ちょうど灰色のコンクリートを綺麗に流しこんだみたいな感じ
地球の海だって
たっぷり満たされた水を全部からっぽにしてしまえば
こんな田舎の駐車場みたいにつまらない感じなのかもしれない
でも地球から青い海がなくなったりしたら
君はきっと泣いてしまうだろうね
君は地球の青い海がとても好きだった

月の海には、ところどころに「リンクルリッジ」というしわ状の尾根があるんだ
近くで見上げるとただの巨大な断崖絶壁だけど
僕の銀色の船の上から眺めていると
月の人魚たちがそこでかくれんぼして遊んでいるような気がするよ


僕はこの記録をペンで紙に書きつけている
地球にいた頃、君は僕がいつも紙とペンを持ち歩いていることを
古い旧世紀の人類のようだと言ってよくからかっていたね
そうさ、あの頃、君には内緒にしてたけど
実は僕はタイムマシンに乗ってこの時代にやってきた旧人類さ


月の海で見る日の出がどんな風か
君は知っているかい
大気のない場所では、太陽はとても白いんだ

静かの海は人類が始めて月面に降り立った海だ

僕は今、この静かの海で日の出を待っている


自由詩 月面航海記(晴の海より) Copyright 楽恵 2010-01-22 00:49:54
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