九重ゆすら

ゆっくり ゆっくり
東の空から姿を現した太陽が
水平線を温めていく
海はやがて青さを取り戻し
乾ききらない朝露を風がさらっていった

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海鳥が鳴いている
合図と呼び声の 両の意味を持っていた
甲高いそれは 処女の嬌声の様でもあったが
もっと正しいものとして響いている

私たちが産まれ落ちる前
さざ波はもっと穏やかだったはずだ
途方も無く肌の色をした裸体を
つめたく包み込んでいたはずだ

柔らかな睦言を
ようやく形を持ち始めた
ちいさな ちいさな耳で 大切に聴いていた
潮の音は とうん、とうん と鳴り
そうして私たちは
この世の何より清らかだった

どうして忘れてしまったのか


自由詩Copyright 九重ゆすら 2010-01-20 15:44:43
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