心音を食む鹿
within
受精を告げる鳥が啼かなくなったとき、朝が訪れなくなった。近いうちに頭が痛くなるだろう。血管が拡がって炎症が起こり、締めつける。腸がび爛するほどに募る思いでも受け入れてもらえないものは受け入れてもらえない。だからといって他所へ目を移しても、気は移らない。遥か昔、槍を持って原野を走っていた頃、腕力で股を開かせていたように、言葉でもって心をこじ開けることはできないかと試みる。いくつもの枝の先にできた蕾が寒空に耐え、遠くにある海と国境を作った日に別れたイソギンチャクと回線を繋ぐ。まだ会ったこともないから、お互いの目線の高さも知らずに、同じものを見ていると思い込み綴られた手紙は、郵便受けの中で白目を剥いて喘いでいる。いつまで待っても無駄なことを伝えるために永遠を引き合いにだし、鈍感な僕を背後から刺し殺そうとする。ノックする。君が僕の心臓をノックする。でも挨拶もせずに去っていく。山に登り、頂から叫びたい。衝動。半裸で裸足で駆け抜け、乾いた空気が軽くなった身体を持ち上げる。浮かぶ。溺愛された猫は行き場のない空白を探して暴走する。まるで何かの症候群のように暴れまわる。幼稚な欲望だと人は笑う。それでも眠る前に君の心臓の木霊が聴きたい。何の欲望もなく。