リョウタロウ
オイタル

拝啓 リョウタロウ君
ぼくは君の立つ位置を知らない
君の電話番号も 住所も 風向きも
君は 積もった雪をかきながら
眼下に広がる田園に額の汗を拭い
そしてゆっくりと
倒れていったという

すりガラス越しに見えた
ワイシャツの襟のよじれが
身に合わなかったのかな
軒のツララの先が
水を流さぬ排水路に届こうとするのを
嫌ったのかもしれない
それとも

いずれにせよ君は
ゆっくりと地面に倒れこんで
真っ青な空と白い雲の頂ばかりを
薄い網膜に留めたという

拝啓 リョウタロウ君
君はたくさんのものを名づけ
たくさんのものを失い
たくさんのものに抗って
それから一気にしわくちゃになったという

それは 五十といくつの夢
それは かぐわしい学生服の生地
それは とてもつややかな水面
そして 信じがたい裏切り

そんなこんなを すっかり襟元にはさみ
君は行ってしまう さようなら
行ってしまうということは
どんな口元で語ればいいかも分からないうちに
さようなら
たくさんのそんな口元で語られてしまいながら

さようなら
さようならのあとに
何が漂っているかは知らないが

さようなら のあとに


自由詩 リョウタロウ Copyright オイタル 2010-01-16 00:41:13
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