おんな椿
あ。

ひと気もまばらな公園で
湿った土の上に落ちた椿の花は
どこか心細げにこちらを見ていた
ささくれたこの景色には眩しすぎるので
その紅色を熱でとろとろに溶かして
指ですくいとりたいと思っていた


わたしの絵の具箱はいつもぐちゃぐちゃで
どの色も変な形にひしゃげていて
それなのに紅色だけは綺麗なままに保たれていた
鮮やかで無邪気な色気があって
祇園の街で見かける舞妓の唇のようで
彼女の美しくしなやかな動作を思い出すと
子どもながらに汚してはいけないと感じ
使うことが少しためらわれる色だった


おんなになったばかりの頃は
紅色ばかりをまとっていた
唇に艶やかな花びらを乗せてみても
甘くて良い香りを漂わせてみても
蜜は吸われることなく熟れてゆくばかり


気まぐれなミツバチがふらりと蜜を吸いに来て
そのまま居ついてしまったのは
色のさかりを過ぎて随分たった頃


立ち止まるわたしの目の前で椿は揺れる
冬風にもひるむことなく益々映える紅色は
顎をあげた美しいひとりのおんなだった
おとこに肩をたたかれて振り返ったわたしもまた
恐らくおんなのかおをしていた


自由詩 おんな椿 Copyright あ。 2010-01-13 19:07:59
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