遺伝子の旅
小川 葉
横断歩道を
舟が渡っていく
あの生まれたばかりの
小さな子供は
その隣で雑談してる
サラリーマンの男たちを
いつか脅かす存在になるだろう
そしてあの年老いた
一艘の舟は
救命ボートの若者たちの
助けなどはいらないと
震える腕で
自らの舟を漕いでいる
私たちは舟なのだ
ホバークラフトの子供たちは
矢のように
横断歩道を横切り
汽船のサラリーマンたちは
煙をはきながら
その向こうへ消えていき
そしてあの老人は
沈みかける舟の上で
たった一つの自我となり
遺伝子の旅の行く末を
見届けている