僧院
都志雄

王朝の残党が夜陰に紛れて街を逃れ、立て籠もったという
断崖の頂の、この石窟の僧院
亡命政権はその後三千日にわたりここで抵抗を続けたという
過酷な環境の中、こわばった数多の命が消えたことだろう
それでも彼らには守り通すべきものがあったのか
朝に夕に街を見下ろし
その荒れてゆく様を憂いながらも
僧院の奥に灯し続けた揺るぎない火

やがてついに、異教徒たちは街から姿を消す。
山から下りた者たちの前には強かに打ち壊された市街

信じるもののために
なぜ争わねばならぬのか
地平の彼方は同じ沈黙
ただ灰色の川端に
サクラソウがそっと咲いている




自由詩 僧院 Copyright 都志雄 2010-01-12 21:09:37縦
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