愛猫
楽恵

お前と一緒に暮らしていて
いつも思い知らされるのが
与えた分だけ与えられるとは限らないのが愛だということ
誰よりお前を愛している
手入れされた上質の柔らかな毛皮
しなやかな体つきや
綺麗なピンク色をした薄い唇といつも笑っているような口角
背伸びするときの物憂げな横顔
細く長い尾を動かすたびチラチラのぞく可愛い肛門
息を潜めて獲物を狙う時の緊張した眼と体勢のすべてを愛している

お前と遠く離れているとき
私はいつもお前の事を考えている
かすかに濡れた鼻先の小さな寝息や
甘えるときゴロゴロ鳴らす喉の音
私の足指を舐めるザラリとした舌の感触
機嫌悪く噛んだ時に残る傷の痛み
意外に鋭い隠された爪のこと
今頃どこで何をしているのか
仕事で車を運転している時や
異国の港町を旅している時
男たちと酒を飲んでいる時に思い出す


私は毎日お前に餌を与えて
お前を飼いならそうとするが
お前が私に従属する気などさらさらないのも分かっている


深夜私が眠りにつく頃
お前はぱちりと目を覚まし
ベッドを抜け出し街に出る
足音も立てず暗い外灯の下を歩き
夜毎違う愛を求めて街を彷徨う
多情で浮気なお前に首輪を嵌めて
私だけに繋ぎ止めておきたい欲望がないと言えば嘘になる
けれども私の知らない所でお前が誰を愛そうが
それはお前の自由だ
もとよりお前にとって私は恋人でも御主人でもなく
お前は自身を私の友だとも奴隷だとも思っていないのだから



自由詩 愛猫 Copyright 楽恵 2010-01-11 15:09:14
notebook Home 戻る