おばあちゃん
ケンディ
おばあちゃんとは、川沿いをよく一緒に
散歩したね。
草履を、ざっ、ざって、すりながら、
とぼとぼ歩く
おばあちゃんのまねをして、私もいっしょに
歩いた。
おばあちゃんが好きだったけど、
ある日突然、田舎に帰っちゃったね。
その日は私、おばあちゃんに対して、
少し意地を張っていたから、
おばあちゃんが、おじさんの車の助手席に乗って、
こっちに手を振った時、
私は平気な顔をして見送っていたわ。
30年も前のことなのに、
私は今でもその瞬間を思い出せるよ。
別れ際のおばあちゃんの笑顔も服装も、
車の色も形も。
おばあちゃんが田舎に帰っちゃうのが、
私には、実はとっても辛いことだったんだなあって、
30年もたった今になって気付いたわ。
でも、おばあちゃんは、私が中学生の時に、
またうちに来たね。
その頃の私はもう思春期だったし、
そんな私は、
おばあちゃんを他人にしか思えなかった。
私はその頃、部活でバスケをやっていて、
背を伸ばしたかった。だから、牛乳を
1日に一本飲んでいたのに、
おばあちゃんがある日、一本そっくり
飲んじゃったね。
あの頃私は、自分の牛乳を
人が飲んだから、ちょっと腹が立ったけど
今思うと、おばあちゃん、かわいかったなあって
思うのよ。
「あたし、牛乳好きなの。」って
にこにこしながらおばあちゃんが
言ったのを、18年たった今でも、
覚えているわ。
おばあちゃんの分もいっぱい牛乳、
買ってあげればよかったわ。
私が学校から帰ってきて、部屋で
テレビの番組を見ていた時、
おばあちゃん、とぼとぼ歩いてきて
テレビの前にずっと立って、
私の方をにこにこして見ていたね。
ちょうど、とってもいいところだったから、
なんで
このタイミングで邪魔するんかなあって、
私、すごく腹が立ったけど、
どいてとも言えず、困っていたわ。
今になって、それでよかったって思うわ。
そのテレビの番組なんて、何だったか、
今では全く思い出せないけど、
テレビの前で、無邪気ににこにこ笑って
私のほうを見てるおばあちゃんの顔だけは、
10年たった今でも、思い出せるから。