煙草
石黒あきこ

白の人は煙草を吸っておりました
一息吸ってはゆっくりと
口から引き出された煙は
、そして、ゆるやかな渦

雨が降っておりました
さら、さらさらさらさらさら、さ

白の人は煙草を吸っておりました

三本目の煙草を吸い終わったとき
白の人は吐き出す煙の尻に
「あ」
、を付けました

「あ」
、は煙の尻にくっついてくるりと一渦巻いて
 から
雨に砕かれきらきらと飛び散りました
、あるいは
ゆるゆると地に溶けてゆきました

きらきら、きら
ゆるゆる、ゆ

「あ」
、の消え行く様があまりに美しいので
ぼくも真似て、あ、を云ってみたのですが
出てきたそれは、あ、ではなく
音ではなく、白ではなく、
、もはやもじではなくことばではなく、、

「 」

白の人はうすらと笑みを浮かべ
四本目の煙草を吸っておりました

腹を減らした魚が横切っていきました



       詩と思想2009年6月号読者投稿欄掲載


自由詩 煙草 Copyright 石黒あきこ 2010-01-08 22:13:44
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