赤く錆びた柵
井上新雪.
兄さん、あなたの期待を私は裏切りました。あの娘は死んでしまった。心中の片割れだったようなのです。私ではない。お願いだから信じてくれますね。やっと立ち上がったかと思えば、その先には真っ赤に錆びた柵。それはずっと昔からいたであろうと思われる、真っ赤に錆びた柵です。そうとは知らずに私は信じていました。自由とあの田舎の木漏れ日がこの手に入るだろうと。年老いた母さんは泣いていますか。年老いた父は下を向いているでしょう。重く動かぬ足の鎖。飛ぶ鳥よりも高い柵。耳が千切れそうなほど冷えるこの牢屋。別の部屋では一人の犯罪者が餓死したようです。しかし私は傷つかない。そんなものにどう価値をつけようか。命とは道具です。わたしの心を満たすための馬であり、機械であるのだ。足の鎖は試練であり、高い柵は私の罪、狭く汚い牢屋は私の価値である。しかし兄さん、あるのです。高い所に、辞書ほどの大きさの、窓が。一日に数時間、あそこから陽が入るのですよ。暖かいのです。私は時を信じます。永遠に止まらぬ、その時を。私は時とともにいつか帰ります。暖かいそちらへ。兄さん、信じてくれますね。