あかいつき
靜ト



こうやって真っ白な入道雲を見つめながら無人駅のホームで涼風にあたっていると
私は永久にこの季節の住人で
それ以外は旅しているだけなんではないかと思う、昼下がり


何もかも果てなく親しく
果てなく孤高であるように感じる、けれど




時給700円で朝から晩までレジ打ちをして

くたくたの足で家に帰ってスーパーの残りを口にする日々

温め直すこともせず冷たいまま口にするのだ
何も考えず口に詰め込むだけでいい


ああ、満たされた


食べ終わってつぶやいてみたら
自分の声の空虚さにびっくりして
慌てて片付けを始める





最近夜中に急に目が覚めことが増えた
一人っきりの暗闇はぞっする程無機質で
私はたまらず外に飛び出す


24時間営業の明かりが見えるまで走ったら
ようやくほっとする

誰かまだ起きているという安心

子供の頃を思い出す
怖い夢を見て起きた夜
居間からこぼれる光と母の気配に安心したこと


欠けているのだろうか
私は
そうだとしたら
何に戻りたいのだろう
どんな形だったのだろう


心細いから口笛を吹いて帰ろうとして、やめる
夜の口笛は死人を起こすと母に昔咎められたから




しんとした冷たさの中
削れたハイヒールの靴音がコンクリートに反響する




見上げると月が、赤い月が、
目を細めなきゃ見えないくらい少し、
欠けている

暗く熱く燃えているように見えるのに
本当は何もなくて冷たいんだろうな
と思ったら
また何かに気づいてしまう気がして
急いであるきだす


もし、いつか満ち足りたなら
私は何に還るのだろう


自由詩 あかいつき Copyright 靜ト 2010-01-07 16:32:22
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