「天使の島」
月乃助


あたらしい
灰色海の貝をさがしてたら
天使をみたよ 濡れた砂の手で
子どもの頃にだって、
こんなことはあったのかもしれない
忘れてしまっても
白い貝殻だけが残されたり

アザラシの住まう島の白い灯台のはるか上
四本立っているラジオ・ポールが背をのばす
うろこ雲の間に隠れていたって
輝く光は、そこらじゅうにもれ出てくるから
どうしたって 隠すことなんかできやしない

春のあたたかな陽射しを
思い出させるのは、
新しい年のはじまり

翼のゆらめきは、天空の
唖然としているあいだにもう 消えてしまって、
望んだって おりてきてくれはしない
でもあれは、幻なんかとちがう
陽の光は、ゆらめく衣の光跡に
白金の帯を残して、静かすぎるほど まぶしいほどに

波のしじまがそこだけは、キャット・ウォークさながら
ゆらめいて 打ち上げられた流木を静かにたたいていたり
大蛇のようなブル・カルプの蠢くようなかたまりから
潮を打ち消す 死人のようなにおいが立ちのぼっていたって

【 海のかおりなど、昔とすこしもかわらない 】

天使の消えていったあとはうつくしく
冬の海岸線の冷たさになじめずにいても 

波が奏でる 葬送曲を思い出す絶え間ない音だって

海鳥達のえさをもとめる貧欲な眼差しだって

浸蝕され やせ細った地層のもようだって

不確かな影をなげかけることなどできやしない

だからただずっと

確かに飛んでいった天使の
うしろ姿をみつめながら
新たな年の穏やかな海を
いつまでも
みつめて
いる










自由詩 「天使の島」 Copyright 月乃助 2010-01-07 08:11:34
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