インド旅行記16(ダージリン)
チカモチ

タイガーヒルツアーに参加してきました。ヒマラヤの雄大な展望が眺められる絶景スポットで、ここから日の出を拝むことがダージリン旅行者にとっては外せないイベントみたいです。

朝の3時半にホテルのフロントへ行くと、すでに先客が待機していました。50代前後のおじさんと、30代くらいの男性二人。話を聞くとバングラディッシュから来ているようで、ダージリンにはたびたび訪れる模様。どうやら私は彼らが乗り込むジープに同席させてもらう形になるようです。

出発時間になるとぞろぞろと人が集まり、10人近くがジープに乗り合わせました。後から聞いた話、ここで乗り合わせたのは皆バングラディッシュ人の身内のようで、よそ者は自分一人のようでした。

ジープに乗ってしばらくすると、それまで自分とは一言も話さなかった男性が突然「このジープ、200ルピーだよ」と声をかけてきました。ホテルマンは昨日100ルピーだと言っていましたが、事情が変わったのでしょうか。たいして考えもせずOKと返したのですが、その瞬間、男性は「OKだって、うひひ」と笑い、ニヤニヤと周りを伺いました。

さすがの私でもピンときました。この人は私をだまそうとしている。大方100ルピーを運転手に払い、あとの100ルピーをちょろまかそうとでもしているのでしょう。
しまったな、と後悔しました。言われた時、そんなはずはないと反発すれば、まだ取り返しがききました。でも安易に了承してしまったことで、状況的に訂正させるのが難しくなってしまいました。一応「私は100ルピーと聞いたのですが…」と言ってはみたものの、「いや、ドライバーが200ルピーと言ってた」と取り合ってくれませんでした。それまで親しげに話してくれたおじさんも、何の助け舟も出してくれません。

そうこうしているうちに丘に着きました。残念ながら観光シーズンのせいか人がごった返し、落ち着いてまともに見られる環境ではなかったのですが、人と人との隙間から日の出を拝むことができました。日が昇った後、バングラディッシュ一家と写真を撮り、チベット寺院を2つ3つ観光した後でホテルに戻りました。

果たしてホテルに到着した後、皆が降りたのを見計らって先ほどの男性が「ドライバーに200ルピー払え」と声をかけてきました。せめて公衆の面前でドライバーに確認をとって払えばよかったのですが、時既に遅し。無駄だと分かりつつドライバーに「100ルピーではないのか?」と尋ねてみましたが、バングラディッシュ人にすっかり染まった運転手は「200だ」と言い切っています。
逃げ道を失った私はしぶしぶ200ルピーを支払いました。その場を後にして振り返ると、ドライバーとバングラディッシュ人がなにやらこそこそと話し合っているのが見えました。

猛烈に腹が立ってきました。100ルピーといえば250円しない程度。日本円に換算すれば全然たいした額ではないのですが、この時の私にとってはけっこう死活問題でした。
ねぇ、分かりますか?ここ数日、私はずっとお金のことばかり考えているんです。宿代や、空港まで向かう際に必要な交通費をはじき出して、それを差し引いた額でどうやってやりくりするか、そればかり考えている。紅茶を買いたいけれど、300ルピーの紅茶を買っていいものか本気で悩んでいる。タクシーにだって乗れやしない。100ルピー200ルピーを全く気にしない日本人とはわけが違うんです。帰れるか帰れないのかの瀬戸際なんです。それなのにあなたは平気でちょろまかした。その行為が私にどれだけの負担を与えているか、あなたには分かりますか?

多分、旅始めの私であれば100ルピーなど全く気にしなかったでしょう。ここにきてようやく、本当にようやく私はインド人の金銭感覚を身につけられたようです。
大体、周りの人たちは友好的に接してたはずなのに、どうしてそういう卑猥な行為を黙認するのでしょう。今更ですが、その理不尽さがやりきれませんでした。

ホテルのフロントでホテルマンに確認してみましたが、やはり参加費は100ルピーでした。事情を説明するとホテルマンは「分かりました。僕がドライバーに言って100ルピーを返してもらうようにしましょう」と頼もしい発言。
しかし、もちろんお金は返ってきませんでした。ホテルマンはこの日の夜、「ドライバーに聞いてみたけど、彼は心当たりがないと言っています。彼を説得してお金を返してもらうのは僕には困難です」と言っていました。そりゃあそうでしょう。でもあなたのやり方はジェントルマンとして完璧でした。ありがとう。

あぁ、たかだか100ルピーでこんなにみじめになるなんて。というよりも、自分の弱さに自己嫌悪でした。分かっていたのに、阻止できたのに、拒めなかった。

やっぱりインドなんて大嫌いだ!と思いましたが、ダージリンの街を歩き、雲がかかった村を見下ろしていたらグッときました。ここは雲の上にある街なんだ。
チベットの服を着た老夫婦が、立ち止まっている自分の後ろを静かに通り過ぎていきました。

こんなに周りに振り回される旅行は今までなかったし、これから先もないだろうと信じたいです。大嫌いになったり大好きになったり、私も忙しい人ですが、また来たくなってしまうんだろうなぁと思いました。


散文(批評随筆小説等) インド旅行記16(ダージリン) Copyright チカモチ 2010-01-06 19:28:09
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