交差点
……とある蛙


1

交差点の灰色の空から淡い紅色の花びらが舞い落ちる。人々はその花びらを見ること無く俯き加減に黙黙と歩いている。誰一人として空を見上げるものは無い。そして降り積もった紅色の花びらを踏みにじる。花びらは靴底に踏みにじられ葡萄色の汁を滲ませ、人々の足を搦め捕って行く。転倒した者は口々に脇を擦り抜ける者を見当違いにも口汚く罵るがいつまで経っても立ち上がれない。交差点の信号は黒く変わっており、鎌を持った異様な風体の男がフードを被って走ってくる。とりあえず頭を擡げた者を刈り取るために。刈り取った頭は交差点の中央に堆く積み上げられワシントン記念塔のような高さになった。ひたすら俯いていた者の中には歩道の反対側に辿り着いた者もいたが。その時には歩道は葡萄色の得体の知れないゼリー状の物の怪が堆積しており、やはり転倒しその物の怪の胃袋に収まった。絶望的な交差点は突然の驟雨に流されてあっと言う間に元の奇麗な交差点に戻り、初夏の鋭い日の光の中に人々は歩いていた。何事も無かったように。

2

日曜日のお昼
僕は交差点を渡る
話し声や車の音
店の音楽やビラを配る声
人人人の交差点を渡る。

本屋には行った。
電気屋に行こうか
CD屋に行こうか

僕はうれしくてなって
わくわくして交差点を渡る
でも交差点には
もっとたくさんの人達が出てきて
僕の前を歩いて行く

閃光…
僕は弾き飛ばされて
また交差点の端に戻る。
交差点では顔のない人々が行き交う。
交差点に音はない
交差点に色はない。

肩にはショルダーバッグ
Tシャツの上にはチェックのボタンダウン
ジーンズにスニーカー
見たようなかっこをしている彼ら
僕も同じで
その後をついて歩く

彼らには声がない。
僕にも声がない。
彼らには顔がない。
僕にも顔がない。

僕は歩きだす。


3

それは奇妙にネジ曲がった樹だった。交通量の多い交差点、中央通りと明神通りの交差点の中央、斜めに置かれている?いや、生えているのだ。大量の車がその脇を擦り抜ける。枝の先には三枚の葉が紅葉している。その樹は太い幹がねじ曲がって二股に分かれ、その分け目から伸びている枝が数本。一本は真っすぐ天を指し、一本はそのまま分かれた幹の一方に先が突っ込まれ、一本はバネのように捩れている。その他一つとして揃っていない。節の多い樹だ。太い幹の節には穴が空いている。樹皮はくすんだ黄金色だ。節穴には顔がそれぞれあり、叫び声を上げているが、声は節穴から出たとたん赤い樹液に変わり樹皮にへばり付く。叫び声の樹液は少しずつ重力に従い自らの重みでゆっくり流れ出し、幹の途中で集まり、赤いゴムの固まりになる。ポタッと地面に落下したゴムは車に撥ねられは大きく弾んだかと思うと、突然地面にへばり付き歪んだ円盤になってしまった。地面にへばり付いた樹液はそのまま節穴の顔になり、また叫び声を上げる。叫び声を上げているが今度は声が液体になり、そのまま路上に染み出しはじめた。路上に染み出した樹液は縁石の際で膨張した固まりとなり、固まりは顔となり 叫びだす。

俺の名前を教えてくれ 俺はどこに行くのか教えてくれ と

 程無くして赤い固まりは通行する車に押し潰されて熨斗烏賊のようになり、さらに押し潰されて紙のようになり、風に吹かれて消えていった。今度ばかりは膨れることは出来なかった。


自由詩 交差点 Copyright ……とある蛙 2010-01-06 14:17:35
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