僕の魂は劣化している
真島正人

ひどい色をした兎だ
毛の先まで汚れて
僕はそれを抱きかかえ
洗ってやった
「あっ」
と声を上げたのは僕さ
間違えていた
汚れていたわけじゃないんだ
それは最初から
薄汚れた色だった

昨日
一人きりで部屋にいて
数千キロを走ってみたんだ
どすんどすん
音が響くから
隣人が怒鳴りつけてきた
僕の体は笑っていたよ
ぜんぶぜんぶ
飲み込まれてしまったあとだったんだ

何から順番に話せばいいのか
迷ってばかりいる友達がいるんだ
大きな石段にぺたりと
しゃがみこんで
骨の隋からさえも力が抜けてしまっている
口は泡を吹いてはいないけれど
目は血走ってしまっているし
ろくにものを食べていないから
始終唇が震えている
僕は蹴飛ばして帰ってきたよ
そいつを

アイスクリームみたいに
甘い夢を見たんだ
口の中が等分で一杯になるような夢を
僕はたらふく食べて
喜んでいた
目が覚めたら
そんなものどこにもなかったけど
ちっとも悲しくなかったよ
だってアイスクリームなんてうれしくないんだ
子供のころだったらともかく
もう甘いものなんて食べたくならない
そのことが余計悲しかったんだ
余計悲しかったんだ
余計悲しかったんだ

ねぇ
僕の魂は劣化している
ふりをしている
劣化しているってことを言い訳にして
ゆったりと寝そべっているんだ
不思議なんだけど
僕はたくさんいいことをするし
悪いことなんてこの数年間一度もしたことがない
きわめて善良なんだ
そして僕は
ゆっくりと嘘をついているのに
ちっとも安らいでなんかいないし
どんどんどんどん
疲れがたまっている
劣化していないことのほうが
時には疲れるんだ
そしてきっと劣化していっても疲れると思うから大変だよ
昨日海を見に行くと
真っ黒い影が
砂浜中に落ちていた
僕は怖くなって逃げ出して
帰ってきたんだ


自由詩 僕の魂は劣化している Copyright 真島正人 2010-01-06 01:13:42
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