空になった女の子
吉岡ペペロ
これはロシアのお話です
ワーニャという女の子が
冬の森を家へといそいでいました
こんなところに?
凍えそうな恰好をしたおばあさんが
娘さん、寒くてつらいんだよ、
ワーニャは着ていた服をにまい
おばあさんにかけてあげました
すこし寒いわ、いそがなきゃ、
森のなかは光がなんぼんかさしているだけでした
まただわ、だれかしら?
娘さん、凍えそうだよ、服を、
おじいさんがよわよわしい声でいいました
ワーニャはまたじぶんの服をあげてしまいました
ああ寒いわ、
ワーニャは夏の子供のような恰好になって
冬の森を家へといそぎました
え?
またおじいさんがたおれていました
おじいちゃん、だいじょうぶ?
おじいさんは返事のかわりに
ちからのないしろい息をはきました
ワーニャは夏の海辺の恰好で
冬の森を家へといそぐことになってしまいました
そしてとうとう女の子は
凍えてつかれてたおれてしまいました
☆
女の子はふしぎな光につつまれていました
あ、なんだかあったかい、おうちのベッドみたい、
そこには神さまと名のる男の子がたっていました
ワーニャ、きみはじぶんの寒さもほうって、ひとをたすけた、きみをたすけない神さまなんてどこにいると思う?
どうなのかしら?
☆
ワーニャが目をさますと
あたたかなベッドのうえでした
おかあさんがかんかんに怒っています
帰ってきたんならただいまぐらい言えるでしょう、
☆
女の子はおとなになっていました
結婚をしてこどもたちにかこまれていました
そのこどもたちも結婚して
まごたちにもかこまれていました
百さいの誕生日、ワーニャのだんなさんも
百さいの誕生日のその日のあさ
ふたりはねむったまま天に召されていました
☆
ワーニャとだんなさんは
ふしぎな光につつまれていました
あ、なんだかあったかい、おうちのベッドみたい、
おばあさんのワーニャは女の子になっていました
だんなさんもみるみるうちに若がえっていきました
若がえっただんなさんを見て
女の子はびっくりしました
そこには神さまと名のる男の子がたっていたのです
あなた、
うん、
うれしいわ、
いこうか、
☆
女の子と男の子の神さまは
いまも空から私たちをみまもってくれています